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オムロン株式会社(証券コード6645。以下、オムロン)

 安藤聡 執行役員常務 グローバルIR・コーポレートコミュニケーション本部長に同社の好業績の背景と今後の事業での取り組みについてお話を伺いました。

Longine IR部から投資家に伝えたい3つのポイント

●2014年度業績に関する会社予想は売上高、利益ともに過去最高を更新する。

●リーマンショック後の構造改革を通じて持続的な「稼ぐ力」を身に着けつつある。

●2020年に売上高1兆円以上、営業利益率15%以上を目標として掲げ、持続的な成長を実現している。

2014年度は最高益更新予想―リーマンショック後にオムロンの何が変わったのか

Longine IR部(以下、Longine):2014年度業績は会社発表では売上高、利益ともに過去最高を更新するとしており、最近の利益の推移に注目しています(図表1)。

 オムロンの最近の業績は円安や世界の景気循環の流れの中で、特に設備投資が上向いたことによって急回復してきたと考える向きもありますが、リーマンショック後の経営には、どのような変化があったのでしょうか。

オムロン 安藤聡 執行役員常務(以下、安藤):結論から言いますと、リーマンショックの前後で経営方針は大きく変わりました。

 確かに、2007年度まで6期連続で増収増益を達成できた背景には、明らかに外部環境の恩恵がありましたが、リーマンショック後の業績、特に2011年度からの急回復は、自発的に構造改革に取り組んだ成果であると認識しています。

Longine:その改革の取り組みや成果について具体的に教えてください。

安藤:リーマンショック後の構造改革の施策として、まず当社がメーカーとしていかに、利益にこだわるようになったかについてお話しします。

 リーマンショック後の2008年度は、計画を策定する時点でグループ全社の営業利益が赤字になるかもしれないという危機感がありました。当時の経営陣や事業部門のトップにとっては極めて大きなショックでした。というのも、ITバブルが崩壊した直後の2001年度決算でさえ当期利益は赤字でしたが、営業利益は黒字だったからです。

出所:SPEEDA、会社資料をもとにLongine IR部作成

Longine:営業赤字に陥るかもしれないという事態を前に、当時の経営陣はどのような対応をとったのでしょうか。

安藤:当時社長であった作田久男(現ルネサス エレクトロニクス株式会社 代表取締役会長兼CEO)がモノづくりの既成概念を根本的に見直し、投資の意思決定も有事対応としてトップダウン方式に変更しました。前者に関しては、自社で主力製品を作ってグローバルに様々な商品を供給するメーカーとしての強みの活用を目指したわけです。

Longine:それ以前は、どのような状況だったのでしょうか。

安藤:お客様が要求されるスペック(仕様)通りの製品を作っていました。具体的には、同じ機能が求められる商品であっても仕様ごとに「都度開発」、「都度設計」、「都度生産」を行っていました。

 このようにお客様の要求や指示に従うだけでは、当社のメーカーとしての価値を向上させることはできないと考え、リーマンショック後にモノづくりにあたっての考え方を抜本的に変えたのです。

Longine:そのポイントについて具体的に教えてください。

安藤:社内用語ですが、前述の作田は”CMO”という概念を導入し、不退転の決意をもって社内に定着させました。CMOとは、コモン、モジュール、オプションのそれぞれの頭文字をとったものです。ある機能が求められる製品を作る際には、まず共通するプラットフォームを作ります。これがコモンの意味です。

 ただし、これだけでは、お客様の要求に完全に応えることができないので、別途用意するのが、モジュールであり、オプションになります。

 すなわち極力共通化したプラットフォームを基本にして製造コストダウンを行い、生産効率を高めてリーマンショックを乗り切るという発想です。仮に売上が増えない状況でも利益率を見直すことにより収益を改善するわけです。

Longine:オムロンが収益にこだわった施策に関して、モノづくりの考え方の転換の他にはどのようなものがあったのでしょうか。

安藤:それは、経営管理の指標として売上総利益率(粗利益率)を重視したことです。これは、現在の代表取締役社長(CEO)山田義仁が、当時の社長の作田久男の右腕として執行役員常務・グループ戦略室長として強化した取組みです。

Longine:売上総利益率にこだわるというのは、オムロンのような製造業としては至極当然のようにも見えますが。

安藤:そうですが、実は当社は売上総利益率にこだわる前は、原価率を評価指標として重視していました。

Longine:売上総利益率も原価率も、コインの表と裏のような関係で、結局同じです。それぞれをあえて分けて考える理由について教えてください。

安藤:たとえば、新しい製品を売り出そうとする際、営業部門は製造部門に対して「コストダウンを徹底的に追求して価格競争力のある製品を開発してほしい」と要求します。これを受けた開発や製造部門は、設計や部材調達の見直しなど考え得る全ての工夫や努力を重ねてコストダウンに努めます。

 しかし、営業部門に、そのコストダウンや付加価値改善に対する理解がなければ、適正価格で販売しようという意識が十分に働かず、製品ごとの利益率を改善することはできません。やはり原価率を指標にしているだけでは、開発や製造部門の努力が主となりがちです。

 そこで、発想を転換し、売上総利益率という営業部門ともつながった製品ごとの利益率を指標にすることにしたわけです。先程、「コインとの表裏」との指摘がありましたが、数字の持つ意味は大きく異なるということです。

Longine:原価率ではなく売上総利益にするというのは、営業部門も含めて全部門で取り組むという意志の表れなのですね。

安藤:そうです。原価率に注目していると、このような企画・開発から製造・販売に至るまでの価値を見失いかねません。しかし、全部門が売上総利益率に注目することで、ともに同じ目線で事業にあたり、それぞれが収益の最大化を意識しながら、一層の向上を目指すようになりました。

オムロンの業績を経営者目線の数字で確認する

Longine:製造業として「稼ぐ力」という観点から改善したといえるのでしょうか。

安藤:売上総利益率については、2008年度を底に回復傾向にあります。2008年度に34.8%でしたが、2014年度会社計画では39.6%にまで改善する見込みです。ただし、当社がこだわっている経営指標は売上総利益率だけではありません。同様にROIC(投下資本利益率)も重視しています。

Longine:ROEは良く耳にしますが、ROICには馴染みのない方が多いかと思います。どのような指標でしょうか。

安藤:売上総利益のように事業の一定期間での収益も重要です。一方で、そうした収益は、過去から資本をどれだけ投入してリターンが得られたのかを評価する必要があります。

 当社は製造業ですから、品質の良い製品を自社生産することに拘っています。したがって、収益(フロー)と投下資本(ストック)の両面から評価するための指標がROICです。

Longine:図表2は、FA(ファクトリーオートメーション)とよばれる生産ライン自動化に関係する日本企業のROICを示したものです。

 確かに、オムロンのROICは2008年度を底に、多少の山谷はありますが、右肩上がりで改善してきています。オムロンは制御機器関連企業の中でも、一歩抜け出た印象があります。今後はどのようにして改善していくのでしょうか。

安藤:先ほどの売上総利益率は、ROICを改善するための重要なバリュードライバーです。また、その売上総利益率を改善するために事業部門ごと、機能組織ごとに評価指標(KPI)を設定しています。各部門や部署に適切な指標を自ら設定させ、定期的に評価し、課題を洗い出して改善し、将来の事業戦略を立案する際に役立てています。

注1:ここでは、ROIC=当期純利益÷(純資産+有利子負債)の期中平均、としている。
注2:キーエンスについては、2012年度決算は12か月決算に調整したものを表記している。
出所:SPEEDAをもとにLongine IR部作成

Longine:経営者が社員に全社の収益目標を実現するため、どのような指標を掲げ、どの程度改善させるかを共有化させるのに苦労しているという話はよく耳にします。オムロンでは、ROICを改善するため、全社員がもっとも身近な指標について共有し、目標を持っているということですか。

安藤:その通りです。企業経営者はROICやROEの重要性を認識していても、なかなか社内に落とし込めないことに悩んでいます。

 当社が「ROIC経営」と呼ぶ経営改善の取り組みは、他の企業でも参考になるはずです。実は、2014年度東京証券取引所が主催する「企業価値向上表彰」において大賞(最優秀賞)をいただきました。上場企業3,400社強の中で最高の評価をいただいたことは大変光栄であり、この「ROIC経営」が高く評価された結果です。

Longine:ROICには、どのような利点があるのでしょうか。

安藤:当社は、制御機器からヘルスケア事業まで幅広い事業に取り組んでいます。また、制御機器事業のお客様は事業会社ですが、ヘルスケア事業のお客様は個人が中心です。

 従前は、株主やアナリストから「事業内容が多岐にわたるため、グループ全体としての価値評価が難しい」と言われたこともありました。しかし、ROICを活用することで客観的に資本生産性を把握し評価することが可能になりました。

 企業価値を論じる際、事業規模(売上)や利益額の大きさは関係ありません。ROICは事業を評価する際のフェアな指標であり、また貴重な経営資源を配分する際の合理的な判断基準でもあります。

 そして、上場企業として株主資本コストを上回るリターンを持続的に上げ続けて初めて、事業価値や株主価値を高めているということを経営陣から社員ひとりひとりまでが自覚して日々の事業に取り組む姿勢にもつながっています。

オムロンは更に収益を伸ばすためにどうするのか

Longine:確かにリーマンショック以降、着実かつ順調に収益を伸ばしてきましたが、この後はどのように推移するのでしょうか。

安藤:中期計画の中で、2016年度は売上高9,000億円以上、売上高総利益率40%以上、営業利益率で10%以上、ROICで13%以上という目標値を掲げています。そして、長期ビジョンとして、2020年には、売上高1兆円以上、営業利益率で15%以上をゴールとして掲げています。

Longine:具体的にどのようにして目標数値を達成しようとしているのでしょうか。

安藤:主として3つあります。ひとつ目は、制御機器と電子部品事業を成長させるための投資を積極的に行い、グローバルで売上高を伸ばしています。二つ目は、中国、アセアン、インド、ブラジルなどの新興国へ積極的に展開しています。その意味で、ヘルスケア事業の成長も大いに期待していただきたいと考えます。

 三つ目は、新規事業の強化です。特に、環境関連に集中して成長を加速しています。因みに、この3年間で太陽光発電に必須なパワーコンディショナ事業は大きく花開き、国内トップシェアに躍進しました。

Longine:非連続的な成長、つまりM&Aによる成長について教えてください。制御機器領域では、特に海外で積極的にM&Aを実施し、事業規模を大きくしているプレーヤーもいます。また、自動車部品業界でも巨大なM&Aが行われています。ヘルスケア業界もM&Aが盛んです。こうした事業環境の中、オムロンはどうするのでしょうか。

安藤:制御機器、電子部品、ヘルスケア事業に関しては既存事業の強化に加え、M&Aとアライアンス(提携)を強化しています。M&Aを含めた戦略投資は3年間で1,000億円程度を目処にしており、既に幾つかの買収を行いましたが、今後は、よりスピード感を持って取り組んでいきます。

Longine:オムロンの時価総額はすでに1兆円を超えています。売上高についても、2016年度は9,000億円以上を目標としています。M&Aなどに配分することが可能な資金が1,000億円程度で十分でしょうか。

安藤:1,000億円が上限であるという意味ではありません。当社は2014年12月末時点で自己資本比率が70%近くあり、またネットキャッシュ(手元現預金)も830億円と極めて潤沢です。

 現状の財務格付を維持しながら相当額の資金調達ができますので、買収資金が必要となれば積極的に資金を調達するつもりです。そして、今後も順調に成長を続けられれば格付が上がり、資金調達の選択肢は更に増えます。

Longine:どのようにすれば、M&Aに関してスピード感を持った意思決定ができるようになるのでしょうか。

安藤:リーマンショック以前は、事業の自律を重んじるカンパニー制のもと、M&Aをはじめとする投資が、いわゆる「個別最適」となる傾向が否めませんでした。つまりカンパニーごとの投資余力の範囲内で決心していたわけです。

 しかしながら、現在では本社機能部門と事業部門が有機的に連結する「マトリックス経営」に移行しており、特に成長のための資源配分の権限は社長の山田が全権を持っていますので、全社的な視点から全体最適の投資判断ができるようになっています。

 事業部門からのボトムアップはもちろん、引続きグローバル競合とのポジショニングを俯瞰することで必要な投資をトップダウンで実行できるような体制作りが欠かせません。

株主還元施策について

Longine:最後に、株主還元の考え方について教えてください。

安藤:当社は非常に明確な株主還元ルールを策定し、かつ公表して透明性の高い運営を実践しています。2014年度は、配当性向を25%以上とする一方で、2016年度までに30%まで引き上げることを株主にお約束しています。

 また、仮に中期的に計画以上に手元資金が積み上がった場合には自社株買い等の株主還元を機動的に行います。

 当社は、成長のための投資を実行しながら、基本方針どおりに増配を実施してきましたし、昨年(2014年)10月にはリーマンショック以降久しぶりに自社株の買入消却を行いました。是非、持続的な成長と今後の株主還元の強化を期待してください。

Longine:本日は、長時間ありがとうございました。

安藤:こちらこそありがとうございました。当社は「事業を通じてイノベーションを起こし、グローバル社会の発展に貢献し、企業として持続的な成長を達成する」という強い信念で経営をしています。

 そして、事業は全て成長分野にアドレスしています。本日は、リーマンショックという大きなピンチをチャンスと捉えて、どのような経営改革を行って成長を実現してきたかを中心にお話ししました。今後の対談で、当社の本源的な価値や強みを具体的にご説明していきますので、引続き宜しくお願いいたします。



転載元:JB PRESS